「唐沢山の猫神伝説」 栃木県佐野市
※この物語は音声でもご視聴出来ます。

むかしむかしのことだんべ。
栃木ん佐野の唐沢山っちゅう山の上にゃ、でっけぇお城があったんさ。
唐沢山城っつってな、名の知れた武将、藤原秀郷さまが住んでたんだと。
秀郷さまはな、百戦錬磨の強ぇ侍で、都でも名をとどろかせてたんよ。
けんども、どんなに強ぇ武将だって、戦三矢や刀だけじゃ守りきれねぇもんもある。
自然の災いだったり、得体の知れねぇものだったりな。
そん頃、唐沢山のふもとの村ん衆は、夜になると怪しい影に悩まされてたんさ。
黒くておっかねぇ姿をした化け物が、牛や馬を襲ったり、畑を荒らしたりしとったんよ。
「なんだべあれは?」
「夜になると山ん奥から出てきて、家畜をさらってぐんだとよ」
村ん衆は震え上がって、戸を固く閉め、夜道を歩けなくなっちまったんさ。
そんなある晩のことだ。
村ん外れでまた化け物が暴れだした。
山を揺らすような足音に、村人らはみんな「うわぁ!」っつって逃げまどったんよ。
そんときだ。
唐沢山城から、一匹の大きな白猫がスッと現れたんさ。
この白猫は、普段からお城に住みついてた不思議な猫でな。
昼間は庭先でのんびり毛づくろいしたり、兵士らの膝ん上でゴロゴロしてたんだと。
けんども、目の奥はきらりと光って、ただの猫じゃねぇ雰囲気をまとってたんさ。
「シャーッ!」
白猫は体をふくらませて化け物に立ち向かった。
爪は鋭く光り、毛は逆立ち、まるで獅子が咆えるような迫力だったんよ。
化け物も負けちゃいねぇ。火のような目で白猫をにらみつけ、牙をむいて襲いかかる。
「グオォォォ!」と叫び声が山ん奥に響き、空気がビリビリ震えたんさ。
白猫は素早く飛び跳ね、化け物の背に飛び乗った。
化け物は暴れまわり、岩を砕き、木々をなぎ倒す。
夜空には稲妻のような光が走り、まるで雷神と戦ってるようだったんよ。
その戦さは夜っぴき続いた。村人たちは恐ろしくて近づけなかったけんど、遠くから震えながら祈ってたんさ。
「猫さま、どうか村を守ってくだせぇ……」
やがて夜明けが近づくころ、化け物の姿はスゥッと煙のように消えていった。
村に静けさが戻ったとき、白猫は地面にぐったり倒れていたんさ。
駆けつけた秀郷さまは、その白猫をそっと抱き上げた。
「おめぇのおかげで村も城も守られたんだ……ありがとよ」
猫は小さく「ニャア」と鳴くと、そのまま空を見上げるようにして息をひきとったんだと。
秀郷さまも兵士らも涙をこらえられなかった。
「この猫はただの猫じゃねぇ。唐沢山を守る神の使いだったんだ」
その後、唐沢山では不思議と大きな災いが起きなくなった。
村人たちは口々に「猫神さまが見守ってくださってるんだべ」と語り、猫を大事にするようになったんさ。
やがて唐沢山ん上にゃ唐沢山神社が建てられ、その猫は「猫神さま」として祀られることになった。
不思議なことに、今でも唐沢山神社に参拝に行くと、本物の猫がトコトコ近づいてきて、まるで「よく来たな」っちゅうふうに迎えてくれるんよ。
その姿を見た人はみんな「おお、猫神さまのお導きだ」っつって、心が安らぐんだと。
だから佐野ん人たちは今でも猫を大事にすんし、唐沢山にゃ猫神さまがいて、城も村も守ってくれてるって信じてるんさ。
おしまい。
