
「那須に封じられた 九尾のきつね」 栃木県那須町
むか〜しむかしの、そのまたむかし。
人間と、もののけと、神さまが入りまじって生きてたころの話だんべ。
栃木県の那須っちゅう場所に、「殺生石」って呼ばれる石があるんさ。
今でも残っとるその石は、毒っ気をもってて、近づくもんの命を奪う、って昔から言われてきた。
でもな、なんでその石が、そったら恐ろしい力を持ってるのかっちゅうと、それは「九尾のきつね」っちゅう、化けもんに関係あるんさ。
昔むかし、遠〜い国、中国に「九尾のきつね」っちゅう、九つのしっぽを持った化けぎつねがおったんよ。
このきつねは、千年も生きて、知恵もすごけりゃ、姿も自由に変えられた。
そんできつねは、ある日人間に化けて、お城に入りこんで、王さまのそばで暮らすようになったんさ。
見た目は絶世の美女、気配りもできて、知識もあって、誰もが夢中になっちまった。
だけどな、国はどんどん乱れてって、王さまは病に倒れ、国の民は苦しみ、天災や飢えがあちこちに起きたんさ。
「これは、おかしいぞ」っちゅうことで、陰陽師たちが調べたら、「そいつは人間じゃねぇ。化けぎつねだ!」ってバレてしまって、九尾は退治され、国を追い出されちまったんさ。
そっからが、きつねの逃亡劇さ。中国から海を渡り、インドにも行って悪さして、そこでも退治されて、最後にたどり着いたのが、この日本だった。そして日本でもまた、人間に化けた九尾は、「玉藻前(たまものまえ)」っちゅう名前で、今度は帝(みかど)のいる御所に現れたんさ。
そりゃあもう、綺麗で気立てがよくて、誰もが「天女が舞い降りた」って言うくらいだったんさ。
帝も、すぐに夢中になってしもうた。だけど、またもや災いが起き始めた。
帝は病に倒れ、都には病が流行り、空はどんより曇って、雷が鳴り、雨が降らんようになった。
「こりゃ、あやしい。ま〜た、あいつが来たんじゃねぇか?」
陰陽師たちが祈祷をして調べたら、案の定。
「玉藻前は、九尾のきつねにちげぇねぇ!」
正体を見破られた九尾は、すぐに都を逃げ出して、とうとう那須野原までたどり着いた。
そこは人の手がまだあまり入っとらん、広い野っぱらだったんさ。
「もう誰にも邪魔されねぇ。ここで新たにチカラを溜めるんだ」
きつねは、そう思ってたんべ。
だけどな、国のために動いた者たちもおった。
弓の名人・三浦介義明(みうらのすけ よしあき)と、上総介広常(かずさのすけ ひろつね)らが、九尾退治に立ち上がったんさ。
ある朝、二人の名人が、静かに弓を構えた。
ぴん、と弦の鳴る音とともに、九尾に矢が飛ぶ
ズドンッ!
矢は見事に命中。
九尾のきつねは、ばたりと倒れ、その体は、やがて石に変わったんさ。
それが、「殺生石(せっしょうせき)」っちゅう石になったわけなんよ。
この石からは毒の気が出てて、草木も生えず、
近づくもんは、たちまち倒れて死んじまうと言われた。
「こわい石だんべなぁ…」
「きつねの怨念が、まだ残ってるんじゃねぇか…」
村のもんらは、誰も近寄らんようになったんさ。
だけんど、時は流れて、あるとき、ひとりの旅の僧がその石の前に立って、
「どうか成仏してくだされ…」と祈りを捧げたんよ。
すると、あら不思議。
それまで枯れてたはずの石のまわりに、小さな草や花がポツポツ咲き始めたっちゅう。
それでもやっぱり、石は石。
今でも、那須に行けばその「殺生石」が残っとる。
そして不思議な空気が、まわりにふわ〜っと漂っとるんさ。
最近じゃ、その石が「割れた」なんてニュースもあったけどよ、
「九尾のしっぽが、また動いたんじゃねぇか?」って噂もあるくらいだ。
だからな、もし那須に行くことがあったら、
殺生石の前では、きちんと礼をして、失礼のないようにな。
化けもんも、怒らせたら・・・知らねぇど?
おしまい。
