※この物語は音声でもご視聴出来ます。

むかしむかしのことだんべ。
日光の山ん中、東照宮の境内にゃあ、三匹のふしぎな猿がおったんよ。

一匹は目ぇをぎゅっとつぶって「見ざる」
一匹は口をおさえて「言わざる」
もう一匹は耳をふさいで「聞かざる」

「おや、なんであの猿たちゃ、そんなヘンテコな格好してんだんべ?」
と、通りかかった旅人が首をかしげた。

すると、近くにいた年寄りの木こりが笑いながらこう言った。

「おめえさん、あの猿らはただの猿じゃねえんだ。人間に大事なことを教えてくれてんだべよ」

「大事なこと?」

「おうとも。世の中には、見ねえほうがいいこともあっぺ? たとえば、人のあやしい企みや悪さを、いちいちのぞいたら自分まで心が汚れちまう。そん時は見ざるが教えてくれんだ」

旅人はうなずいた。
「なるほど……。じゃあ言わざるは?」

「これはな、人を傷つける言葉や余計なことは言わねえほうがいいって教えてんだべ。舌は刃物より鋭えって言うべ? だから言わざるが口を押さえてんだ」

「ほう……。んじゃ聞かざるは?」

木こりは少し真剣な顔になって、声をひそめた。

「世の中、耳に入れねえほうがいいこともあるんさ。悪口や噂話ばっか聞いてたら、心がどんどん暗ぐなっちまう。だから聞かざるが耳をふさいでんだ」

旅人は目を丸くして、「そっかぁ!三匹の猿は人が正しく生きるための知恵だったんだな」と深くうなずいた。

そこへ、近くで遊んでいた子どもらも寄ってきて、木こりに聞いた。

「じいさま、でもよぉ、ぜんぶ見ねえ、言わねえ、聞かねえじゃあ、なんもできねえじゃんか!」

木こりはニカッと笑ってこう言った。

「そこが肝心なんだ。ほんとうに大事なことは、ちゃんと見て、言って、聞かなきゃいけねえ。三匹の猿は、いらねえもんは捨てて、ほんとに必要なことを大事にせえって教えてんだべよ」

子どもらは「なるほどなぁ!」と手を叩いて笑った。

その日から旅人も子どもらも、悪口や噂話には耳を貸さず、人を傷つける言葉は口にせず、余計なもんは見ないよう心がけたんだと。

だからこそ、日光東照宮の三猿は、いまでも世界中の人に愛されているんだんべなぁ。

おしまい。