※この物語は音声でもご視聴出来ます。

むかしむかし、いまの小山市の城山に祇園城(ぎおんじょう)っちゅうお城があったんさ。

そこさ、大きな戦を前にして、日本じゅうの武士たちが集まったことがあったんだよ。
これを「小山評定(おやまひょうじょう)」って呼ぶんさ。

時代は戦国の終わりごろ。
世の中はまだまだ乱れとってな、誰が天下をとるのか分からねぇ、そんないくさの時代だったんよ。

そのころ、一番力のあったのは徳川家康(とくがわいえやす)っちゅう殿さま。けれども、西の国では石田三成(いしだみつなり)っていう武将が兵を集めて、家康に立ち向かおうとしていたんさ。

「さて、わしらはどうすんべ」


家康の家来たちは、みんなで祇園城に集まって、大評定(ひょうじょう=おおきな会議)をひらいたんだと。

評定の席には、ずらーっと名だたる武将が顔をならべたんさ。

福島正則(ふくしままさのり)
加藤清正(かとうきよまさ)
黒田長政(くろだながまさ)
いずれも勇猛(ゆうもう)な武士ばっかし。


けんどな、心の中はみんな揺れとったんさ。
「西の石田につくべぇか? 東の家康につくべぇか?」ってな。

ひとつ間違えば、自分の命も家族も国も、すっかりなくなっちまう。
だれも軽はずみに口は開けなかったんだと。

そん時、評定の広間のすみっこに、不思議な影がひそんでいたんさ。その影は、ひとの心の声をすくいとって、耳もとでささやくといわれていた。

ある者には、「西へ行け。石田の軍は勢いづいておるぞ」

またある者には、「東に残れ。家康は必ず天下を取る」

って、こっそり吹き込んでいたんさ。

けんど家康は、その影の存在に気づいとったんだと。
だからこそ、静かに立ち上がって、みんなにこう言ったんさ。

「わしは天下のために、西の石田を討つ!この国を二度と乱れさせぬために、ここで腹を決める!命をかけてついてきてくれる者はおらぬか!」

その言葉に、武将たちの心はビシッと定まったんさ。さっきまで迷っていた心の影も、家康の覚悟を聞いたら、すーっと消えてったんだと。


「おう! 家康殿についていくべ!」
「わしらも東軍じゃ!」

次々と声が上がり、みんなの心がひとつになったんさ。

こうして小山評定で決まったことが、そのあとの「関ヶ原の戦い」に続いていくんだと。

みんなも知っとるとおり、その戦いで家康が勝って、のちに江戸幕府をひらくことになったんさ。

けれどもな、この話にはもうひとつ裏があるんだと。
実は、あの祇園城のすみにひそんでいた影は、戦国の世を終わらせたいと願う「国の精」だったんじゃないかって言われとる。

人の心を揺らし、迷わせ、最後には「ほんとうの覚悟」を引き出すために現れた。

そんな不思議な力を持つ影。

だからこの話は「小山評定の影話」と呼ばれるようになったんさ。

今でも祇園城跡を歩いていると、夕暮れ時にふと影が長くのびて、耳もとでささやくことがあるそうな。

「おまえは、どっちの道をえらぶんだ?」

もしそんな声が聞こえたら、それは昔の評定の影かもしれねぇな。

いまを生きるわたしたちにとっても、大事なことは同じだっぺ。
だれかの言葉にゆれることはあっても、最後に道を決めるのはじぶん自身。

家康のように腹を決めて、一歩ふみ出す勇気を持てば、どんな影だって、すーっと消えていくもんなんさ。

おしまい。